工場長また辞められたらと思うと、次を雇う気になれないのよ。外国人って、やっぱりすぐ辞めるんじゃないの?
——そう感じている方に、今日は少し耳の痛い話と、希望のある話の両方をします。
辞める人は、います。でもそれは「外国人だから」ではありません。そして、辞めるとき一番大きなものを失っているのは、実は本人のほうかもしれない——この視点を持てたとき、定着させるコツが見えてきます。
私はバングラデシュ人の夫と30年以上暮らしています。夫は通訳として、日本で働く同じ国の方と接する機会があります。今日の話は、その夫がぽつりと言った一言から始まります。
夫がぽつりと言った「もったいない」
ある日、夫がこんなことを言いました。



せっかく雇ってもらっても、辞めてしまう人がいるんだよ。
考えてみてください。日本に働きに来るというのは、家族と離れ、慣れた暮らしを手放し、大きな決意をして海を渡ってくるということです。一般に、来日までに少なくないお金と時間がかかることも指摘されています。会社の側も、募集や手続きに費用と手間をかけ、仕事を教える時間を注いできた。辞めるという結末は、双方が積み上げたものを同時に失う、痛み分けですらない「両損」なのです。



それはうちも同じよ。教えた時間を返してほしいくらい。……でも、じゃあなんで辞めるの?
なぜ辞めるのか——「外国人だから」ではない理由
まず、身も蓋もない事実から。日本人の若手社員も辞めます。仕事が合わない、人間関係、待遇——辞める理由の根っこは、実は国籍とあまり関係ありません。
ただし、外国人材の場合、同じ理由が何倍にも増幅されやすい構造があります。これまでの記事で書いてきた、彼らの文化と暮らしの事情を思い出してください。
- 人前で叱られた——日本人にとっての「指導」が、名誉を重んじる彼らには何倍もこたえます。同じ国の仲間の目があればなおさらです(詳しくはこちらの記事へ)
- 孤独——職場に話し相手がなく、地域にも居場所がない。家族と離れて暮らす彼らには、これが一番効きます
- 家族の一大事に配慮がなかった——家族は彼らの人生の中心です。ここへの無理解は、心が離れる決定打になります(詳しくはこちらの記事へ)
- 毎日の食事がつらい——食べられるものがない生活は、想像以上に消耗します(詳しくはこちらの記事へ)
- 仕事を覚えられず、聞き返すこともできず——「できない人」のまま放置される気まずさ(詳しくはこちらの記事へ)
- 生活の小さなつまずき——ごみ出しで近所とこじれる、といった暮らしの摩擦(詳しくはこちらの記事へ)
一つひとつは小さくても、積み重なると「ここに居場所はない」に変わります。逆に言えば——どれも、職場の工夫で減らせるものばかりです。
「辞めない職場」がやっていることは、特別なことではない
上の理由リストを裏返すと、そのまま定着の打ち手になります。
| 辞める引き金 | 防ぐ工夫 |
|---|---|
| 人前での叱責・体面の傷 | 褒めるのは人前で、注意は1対1で |
| 孤独 | 気にかける担当者1人+社外の居場所への配慮 |
| 家族への無配慮 | 大きな祝日の把握と「おめでとう」の一言 |
| 食事の消耗 | 食材入手の最初だけ手助け |
| 仕事が覚えられない | 口頭の繰り返しをやめ、書いて渡す |
| 生活の摩擦 | ごみ出し・音のルールを最初に伝える |
お金のかかる施策が一つもないことに、気づいていただけると思います。定着率を上げるのは、賃上げの前に、この種の「小さな敬意」の積み重ねです。
それでも、辞めるときは辞めます(きれいごと抜き)
正直に言います。すべての離職は防げません。
より良い給料を求めて移る人はいます。在留資格によっては、同じ分野での転職が制度上認められてもいます(2026年7月時点)。家庭の事情で帰国する人もいます。それは日本人の転職と同じで、責められることではありません。
だからこそ、最後にお伝えしたいのは去り際の話です。彼らのコミュニティは横のつながりが濃く、会社の評判は驚くほど速く共有されます。辞め方がこじれた会社の話も、良くしてもらった会社の話も、同じ速さで広まります。つまり——
気持ちよく送り出した会社には、「あそこは良い会社だ」という評判が残り、次の人材がやって来ます。
一人の離職を「損切り」で終わらせるか、「次の採用の種まき」に変えるかは、最後の対応で決まります。30年以上この文化のそばで暮らしてきた私の、これは確信です。



辞める理由は日本人と同じ。でも増幅されやすくて、工夫で減らせる。……で、去り際まで大事にする、と。



そうです。そして工夫は全部、お金より「敬意」でできています。
まとめ
- 辞める理由の根っこは日本人と同じ。ただし外国人材は孤独・体面・家族・食事・言葉で何倍にも増幅される
- 打ち手はすべて低コスト。「小さな敬意」の積み重ねが定着率を作る(上の表と各記事を参照)
- それでも防げない離職はある。去り際を大切にする会社に、次の人材が来る
次の一歩として、まだお読みでなければ「まず1人+孤独対策」の話からどうぞ。定着の話は、実は採用人数の設計から始まっています。
※本記事は一個人の体験と見聞に基づく内容です。在留資格・転職の制度は変わることがあります(2026年7月時点)。個別のお手続きは、行政書士等の専門家にご相談ください。







