「同じことを何度言っても伝わらない」「その場ではうなずくのに、次の日にはできていない」——一度うまくいかなかった経験があると、外国人材の受け入れにこう感じている方は多いと思います。
工場長同じことを何度言っても伝わらないの。正直、もう疲れたわ…。
伝わらないのを「本人の能力ややる気のせい」と結論づける前に、教え方を「口で何度も言う」から「書いて渡す」に変えてみてほしいのです。精神論ではありません。今はAI・音声入力・自動翻訳のおかげで、手順書を作るハードルが昔とは比べものにならないほど下がっています。
私はバングラデシュ人の夫と30年以上暮らし、企業でも35年以上、事務と情報管理の仕事で人に教える機会が多くありました。その中で身についた、地味だけれど効く方法の話です。
忘れるのは「外国人だから」ではない——仕事の教え方の大前提



でも、その場ではうなずいてたのよ?次の日にはできてないの。
まず、いちばん大事な前提からお伝えします。人は忘れます。外国人だから忘れるのではありません。日本人の新人だって、一度聞いただけの手順は翌週には抜け落ちます。私自身、その場では覚えていても、時間がたてば忘れる人間です。
だから「何度言っても覚えない」を相手の能力の問題にするのは、少し早いのです。忘れるのが当たり前の生き物に、消えていく「音声」で伝え続けているとしたら、消耗するのはお互いです。教える側は同じ説明を繰り返して疲れ、教わる側は「また聞くのは気まずい」と黙り込む。この悪循環は、相手のやる気とは別のところで起きています。
ただし、外国人材の場合はここに事情が重なりやすいのも事実です。一般によく言われることとして、
- 聞き取れなかったのに、その場で「聞き返せない」
- 意味は分からないまま、とりあえず「うなずいてしまう」
- 早口の日本語や専門用語だと、そもそも音として拾えない
こうしたことが起きやすい。本人が不真面目なのではなく、「その場で理解できたかどうか」を口頭のやりとりだけで確認するのが、そもそも難しいのです。
「書いて渡す」に変えるだけで、外国人への仕事の教え方は変わる
ここで私自身の習慣を一つ。私は、夫や夫の友人から何かを頼まれたとき、紙に書くようにしていました。特別な理由ではありません。日本人相手でも同じで、そのときは覚えていても、時間がたつと忘れるからです。頼まれごとを口約束のままにしておくと、必ずどこかで抜けます。
この「忘れるから書く」という当たり前を、仕事の教え方にそのまま持ち込むだけです。口で何度も言う代わりに、手順を書いて渡す。たったこれだけで、いくつもの問題が静かに消えていきます。
| 口で何度も言う | 書いて渡す |
|---|---|
| 言った先から消える | 後で何度でも見返せる |
| 聞き返すのが気まずい | 紙が答えるので気まずくない |
| 教える人によって説明が変わる | 誰が教えても同じ内容になる |
| その場の日本語力に左右される | 翻訳アプリにかけられる |



翻訳アプリにかけられるのは、たしかに大きいわね。
特に大きいのが、翻訳アプリにかけられるという点です。音声は翻訳できませんが、文字にしてあれば、本人が自分のスマホで母国語に直して読み返せます。「聞き返す気まずさ」から相手を解放できるのが、書いて渡すことのいちばんの効きどころだと思います。



いいのは分かったけど、手順書を作る時間なんてないわよ。
手順書づくりのハードルは、昔より劇的に下がっている
「書いて渡すのがいいのは分かるけど、そんな手順書を作る時間がない」——ここがいちばんの本音だと思います。
でも、状況は昔と大きく変わりました。私が人に教えていた頃は、AI翻訳などありませんでした。手順書は一字ずつ手で打つしかなく、多言語化などとても現実的ではなかった。今は違います。
- 音声入力:キーボードを打たなくても、スマホやパソコンに向かって普段どおりしゃべるだけで、そのまま文字になります。「まずここを開けて、次にこれを押して」と口で説明する要領で、テキストができあがります。
- 翻訳アプリ・AI:できたテキストを、本人の母国語にほぼその場で訳せます。やさしい日本語で書いておけば、訳の精度も上がります。
- 動画・ふりがな資料への展開:テキストがあれば、そこから作業動画を作ったり、ふりがな付きの資料にしたりと、応用も効きます。
つまり、いつも口でやっている説明を、一度しゃべって文字にしておく。それだけで、翻訳も、見返しも、次に入る人への引き継ぎも、まとめて楽になります。最初の一手間を、後で何十回も効かせるイメージです。
なお、製品名やサービス名はあえて挙げません。特定のアプリに頼る話ではなく、「音声入力・翻訳・AI」という今どき当たり前になった道具を使うだけ、という点が大事だからです。
正直に言います、書いても解決しないこと
ここまで読んで「書けば全部うまくいく」と思われると、この記事の意味がありません。良い話だけを並べるつもりはないので、限界も正直にお伝えします。
- 最初に手間がかかる:手順書は一度作らないと存在しません。ゼロから作る最初だけは、確実に時間を取られます。ラクになるのはその後です。
- 書けば伝わる、わけではない:文字を渡して終わりではありません。実際にやって見せる、やらせてみる、というプロセスは今までどおり必要です。手順書はそれを助ける道具であって、代わりにはなりません。
- 翻訳には誤訳のリスクがある:自動翻訳は完璧ではありません。特に安全に関わる重要事項(火・薬品・機械など)は、訳した文字だけに頼らず、現物や写真で「これのことだよ」と必ず目で確認してください。
- やさしい日本語で書く手間:翻訳の精度を上げるには、一文を短く、一文につき一つのことだけ書く「やさしい日本語」が有効です。慣れないうちは、これ自体が少し練習です。
書いて渡すのは万能薬ではなく、「口頭の繰り返し」という消耗戦から抜け出すための、地味で確実な一手だと考えてください。



まず一つだけ、しゃべって文字にしてみようかな…。
まとめ:今日からできること
- 忘れるのは人間共通。外国人材が特別に忘れっぽいのではなく、消えていく「音声」で伝え続ける方法に無理がある
- 口で何度も言うより、書いて渡す。後で見返せて、翻訳でき、聞き返す気まずさもなくなる
- 手順書づくりのハードルは今や低い。音声入力でしゃべって文字にし、翻訳やAIで多言語化できる。ただし最初の手間・誤訳リスク・実演の必要性は残る
次の一歩として、いつも口で説明している作業を一つだけ選んで、しゃべって文字に起こしてみることから始めてみてください。全部を一気に手順書にしようとすると挫折します。まず一つです。
そもそも「何人を、どう受け入れるか」の入口でつまずくと、教え方以前の話になります。採用人数の考え方については「バングラデシュ人はプライドが高い?雇うなら『まず1人』がいい理由」もあわせてお読みください。
教え方の工夫は、これ以外にもまだあります。続きは別の記事でお伝えする予定です。
※この記事は、バングラデシュ人の夫を持つ日本人妻としての体験に基づく内容です。制度や個別のお手続きに関することは、行政書士等の専門家にご相談ください。







