「来月からバングラデシュ人が入社するけど、ラマダン(断食月)が来たら仕事はどうなるんだろう?」「1ヶ月も断食して、現場で倒れたりしないか?」——雇うことを決めた方が、次に必ずぶつかる心配だと思います。
専務ラマダンか…。断食しながら現場作業なんて、倒れたりしないのか?
「ラマダンが来たら仕事はどうなるんだろう?」——雇うことを決めた方が必ずぶつかる心配だと思います。安心してください。ラマダン中も、働けます。世界中のイスラム教徒が、断食しながら普段どおり仕事をしています。そして多くの日本人が誤解しているのですが、断食は「1ヶ月間ずっと何も食べない」のではありません。太陽が出ている間だけです。
私はバングラデシュ人の夫と30年以上暮らし、夫のコミュニティを間近で見てきました。今日はきれいごと抜きの実際をお話しします。
まず誤解をとくところから。「断食=1ヶ月絶食」ではありません
ラマダンの断食は、夜明けから日没までの間、食事と飲み物を断つものです。つまり、
- 日の出前に起きて、しっかり食事をとる(スフールといいます)
- 日中は何も食べない・飲まない
- 日没後に家族や仲間と食事(イフタール。1日で一番楽しみな時間で、ごちそうが並びます)
「食べる時間帯が夜にずれる1ヶ月」とイメージしてください。だから体は持ちますし、仕事もできるのです。
ただし、知っておいてほしいことが2つあります。
1つ目:日中は水も飲めません。食べ物だけでなく、水分も日没までとらないのが本来の断食です。つまり日中の彼らは、軽い脱水状態で働いていることになります。ここが職場の配慮のしどころです(後ほど詳しく)。



食べ物だけじゃなくて、水もダメなのか!?
2つ目:生活が夜型になります。夜明け前に起き、夜にしっかり食べるので、どうしても睡眠不足になりがちです。日中の集中力や体力は、正直、普段より落ちます。
一つ、日本で雇う側に朗報があります。ラマダンの時期は毎年約11日ずつ早まっていくのですが、ここ数年は冬から春先にあたっています。日本の冬は日没が早いので断食時間そのものが短く、体への負担は夏場よりずっと軽いのです。
そして、もう一つのリアル。「断食しない人」もいます



するかしないかは、自分で信仰と相談して決めることなんだ。
イスラム教徒=全員が厳格に断食、というイメージがあるかもしれません。でも、夫のコミュニティを30年以上見てきた実感では、実際はさまざまです。
- 日本でも毎年きっちり断食する人
- 仕事のある日はせず、休みの日だけする人
- 体調や仕事の状況を見て、年によってやったりやらなかったりする人
そもそもイスラム教には、旅行中の人・病気の人・妊娠中の人などは断食を免除され、後日改めて行ったり、施しで代えたりできる仕組みが最初から用意されています。「事情があるときに無理をしない」ことは、教えに反することではないのです。日本で働きながらの断食は簡単ではありませんから、悩んだ末に「今年はしない」と決める人がいるのは自然なことです。
大事なのは、断食する人も、しない人も、どちらも本人が信仰と相談して決めているということ。「イスラム教徒だから断食するはずだ」も「日本で働いているんだから、しないだろう」も、どちらも決めつけです。
職場がやるべきことは、たった一つ。「決めつけずに、本人に聞く」
ラマダンが近づいたら、本人にこう聞いてください。
「もうすぐラマダンだね。仕事のうえで、何か配慮したほうがいいことはある?」
この一言だけで十分です。「あなたの信仰を尊重する準備がある」というメッセージとして伝わり、それ自体が信頼になります。そのうえで、断食する従業員には次のような配慮が考えられます。



で、うちの現場は具体的に何をすればいい?
| 場面 | 配慮の例 |
|---|---|
| 水分 | 日中は水も飲めない、と知っておく。勤務中に日没が来る時期・シフトなら、日没直後に数分の飲食休憩を認めると非常に感謝されます |
| 危険な作業(高所・重機・炎天下) | 脱水と睡眠不足を前提に、ラマダン中は配置を調整するか、体調確認をこまめに |
| 昼休み | 食堂で同僚の食事を眺めて過ごすのは辛いもの。別室や静かな場所で休めるようにする |
| 体力仕事の時間帯 | 可能なら午前中(体力のあるうち)に回す |
なお、イスラム教では健康に危険が及ぶ場合、断食を中断してよい——むしろ中断すべき——とされています。「倒れそうでも我慢させる宗教」ではありません。体調が明らかに悪いときは、遠慮なく本人と話してください。
やってはいけないこと
逆に、これだけは避けてください。
- 「断食してるの?してないの?」と人前で問いただす。——以前の記事にも書きましたが、彼らは体面をとても重んじます。断食するかどうかが同じ国の仲間の目にさらされる状況は、本人にとって一番苦しいのです。聞くなら1対1で。
- 「倒れられたら困るからやめてくれ」と禁止する。——信仰への介入は、退職の引き金になり得ます。危険があるなら、断食をやめさせるのではなく作業の配置を変えるのが筋です。
- 断食しない人を「不真面目なイスラム教徒」扱いする。——考えたうえでしない人もいます。どちらの選択も本人のものです。



決めつけずに、本人に聞く。結局それが一番なんだな。
まとめ
- 断食は「1ヶ月絶食」ではなく「太陽が出ている間だけ」。夜明け前と日没後に食べるので、働けます
- ただし日中は水も飲めず、睡眠も不足しがち。危険作業と夏場は特に配慮を
- 断食するかどうかは人それぞれ。職場がやることは一つ、「配慮したほうがいいことはある?」と1対1で聞くこと
ラマダン明けには「イード」という一年で最大のお祝いが来ます。彼らにとってのお正月のようなものです。祝い事を職場がどう扱うとよいかは、こちらの記事をどうぞ。
※本記事は一個人の体験に基づく内容です。信仰の実践には個人差があります。在留資格などの個別のお手続きは、行政書士等の専門家にご相談ください。



