総務さん外国人を採用することになったけど…社会保険って、日本人と同じでいいの?



制度は同じです。大変なのは、そこじゃないんです。
外国人であっても、要件を満たせば日本人とまったく同じように社会保険に入ります。制度そのものに「外国人版」はありません。本当に難しいのは、その仕組みを本人に理解してもらうところです。
わたしは企業で35年以上、事務と情報管理をしてきました。夫はバングラデシュ人で、一緒に暮らして30年以上になります。その両方の目線から、受け入れ側の総務ができることを整理します。
※この記事は2026年8月時点の情報です。制度は改正されることがあるため、実際の運用は必ず最新の公式情報をご確認ください。
外国人の社会保険の手続きは、想像よりずっと高い壁です
先日、役所の窓口で順番を待っていたときのことです。
待合室に座って、少し驚きました。待っている方の半分以上が、日本語以外の言葉で話していたのです。
そのとき思ったのは、「この人たちは、話の内容を理解できているのだろうか」ということでした。保険や年金の話は、日本人のわたしでも難しいです。用語が多く、例外が多く、自分がどの制度に当てはまるのかがすぐには判断できない。だから相談に来ているわけです。
それを、外国語で聞く。しかも母国の制度とはまるで違う。難易度は、日本人が感じる「難しい」の何倍にもなるはずです。
- 「保険」「年金」に相当する制度が母国にない、または全く別の設計になっていることがある
- 「扶養」「被保険者」「資格喪失」といった言葉が、日常の日本語の延長では推測できない
- 給与から天引きされる意味が理解できないまま、手取りだけが減って見える
最後の点は、実際にすれ違いのもとになりやすいところです。説明がないまま額面と手取りの差だけを見れば、「約束と違う」と感じても無理はありません。ここを最初に一言添えるだけで、防げるトラブルがあります。



たしかに…自分だって、給与明細の控除欄は全部は説明できないです。
会社の社会保険と市区町村の手続き——外国人材が通る2つの入り口
大きな枠組みだけ押さえれば、見通しが立ちます。入り口は2つです。
| NO | 入り口 | 中身 | 手続きの場所 |
|---|---|---|---|
| ① | 会社経由 | 健康保険+厚生年金保険 | 会社(事業所)が手続き |
| ② | 本人が自分で | 国民健康保険+国民年金 | 住んでいる市区町村の窓口 |
①の会社経由が基本の形です。日本年金機構は、健康保険・厚生年金保険の適用事業所に常時使用される方について、「国籍や性別、賃金の額等に関係なく、被保険者となります」と明記しています(日本年金機構「外国人従業員を雇用したときの手続き」、2025年12月24日更新)。つまり、外国人だから入らない・入れない、ということはありません。
②は、①に当てはまらない人が通る道です。勤務時間が短い方、扶養に入る家族、学生などがこちらになる場合があります。国民年金についても、日本年金機構は「国籍に関係なく、日本に住所を有する20歳以上60歳未満の方が被保険者になります」と説明しています(日本年金機構・事業主向け特設ページ)。国民健康保険は、一般的には、住民登録のある市区町村の窓口で手続きします。
総務が押さえておくべきは、「会社がやること」と「本人が自分で市区町村の窓口へ行くこと」の境目だけです。ここを最初に伝えるだけで、本人の混乱はかなり減ります。
なお、どちらに当てはまるかは働き方で変わりますし、細かい要件は制度改正で動きます。個別の判定は年金事務所や社会保険労務士など専門家の領域です。



なるほど、「会社がやる分」と「本人が行く分」があるのね。そこを最初に言えばいいですね。
帰国するとき返ってくる?「脱退一時金」という制度
日本には脱退一時金という制度があります。日本国籍を持たない方が、国民年金や厚生年金保険の被保険者資格を失って日本を出国した場合に、納めた保険料の一部にあたるお金を受け取れる、という制度です。
日本年金機構の公式説明によると、主な要件は次のとおりです(すべてではありません。2026年8月時点、日本年金機構「脱退一時金の制度」・2026年4月1日更新。詳細は公式サイトでご確認ください)。
- 日本国籍を有していないこと
- 保険料納付済期間等が6か月以上あること
- 老齢年金の受給資格期間(10年)を満たしていないこと
- 日本国内に住所を有していないこと
- 公的年金制度の被保険者でないこと
- 日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求すること
- 支給額の計算に使う月数の上限は、2021年4月以降に保険料納付済期間等がある場合は60月(5年)まで(それ以前は36月〈3年〉が上限)
太字にしたのが、総務として一番大事な2点です。この期限を知らずに帰国し、過ぎてしまう人がいます。在職中に一言「帰国することになったら、年金にこういう制度があるから、必ず日本年金機構の公式サイトを見てね」と伝えておく。それだけで、本人の利益が守られる可能性があります。
ただし、請求のやり方まで総務が案内するのは行き過ぎです。要件の判定も書類の書き方も、年金事務所や社会保険労務士・行政書士等の専門家の仕事です。総務の役目は「そういう制度がある」と教え、公式サイトの入口を渡すところまでです。



これは知らなかった…。「2年以内」って、教えてあげないと絶対に間に合わないじゃないの。
外国人の社会保険の手続きで、総務ができる4つの支援
ここまでを踏まえて、明日からできることを4つに絞ります。総務に必要なのは専門知識ではなく、「迷ったときにどこへ聞けばいいか」の道筋を示せることです。
1. 入社のときに「2つの入り口」だけ説明しておく
先ほどの表を、そのまま渡すくらいでかまいません。細かい要件は説明しません。「会社が手続きするもの」と「あなたが市区町村の窓口へ行くもの」があると知っているだけで、本人は迷子になりません。
2. 口頭ではなく「書いて渡す」
仕事の教え方・生活ルールの伝え方でも書いた、わが家で何度も確かめた原則です。制度の話は特に、その場で聞いても記憶に残りません。紙かデータで渡せば、家に持ち帰って辞書を引いたり、仲間に聞いたりできます。
3. 多言語・やさしい日本語の公的資料を先に調べておく
出入国在留管理庁は「外国人生活支援ポータルサイト」で、生活・仕事の情報を多言語およびやさしい日本語で公開しています(同ポータル)。同庁と文化庁は「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」も出しています(同ガイドライン)。
市区町村の窓口にも、通訳や多言語案内が用意されている場合が少なくありません。本人が行く前に「外国語対応があるか」を一度調べておく。それだけで当日の負担がまるで違います。
4. 本人の利益になる制度は、早めに伝えておく
脱退一時金がその代表です。「辞めるとき」の話は言い出しにくいものですが、入社時の案内に一行入れておけば、あとで感謝されます。
わたしの体感と、統計を見比べてわかったこと
あの日、待合室を見ながら、わたしは「このうち3割くらいはバングラデシュの人かもしれない」と感じました。でも、これはあくまでわたしの体感で、統計ではありません。気になって、全国の数字を確かめてみました。
出入国在留管理庁によると、令和7年末現在の在留外国人数は412万5,395人。上位5か国は中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ネパールで、バングラデシュは上位10か国に入っていません(出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」)。
働いている人で見ても同じです。厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況(令和7年10月末時点、令和8年1月30日公表)では、外国人労働者は2,571,037人で過去最多。国籍別ではベトナム(23.6%)、中国(16.8%)、フィリピン(10.1%)が上位でした(厚生労働省)。
もちろん、全国の統計と、ある日ある場所の窓口で見た顔ぶれは、そのまま比べられるものではありません。地域によって暮らしている方の国籍の内訳は違いますし、あの日わたしが見かけた方々の中には、日本国籍の方もいたかもしれません。それでもはっきり言えるのは、見た目や話し声だけでは、国籍も、制度の理解度も、何もわからないということです。思い込みで進めず、公式の数字と本人の言葉で確かめる。社会保険の話も、まったく同じだと思います。
総務が抱え込まないほうがいい理由
最後に、限界も書いておきます。
- すべてを把握してあげる必要はありません。制度は複雑で、しかも改正されます。中途半端な知識で断言するほうが危険です
- 判断が要る場面は、迷わず公式窓口へ。年金事務所、市区町村の窓口、社会保険労務士、行政書士。つなぐ先を知っていることが総務の実力です
- 「わからないから聞いてこない」が一番まずい。質問しやすい空気をつくるほうが、制度を暗記するより効きます



要するに、全部覚えるんじゃなくて「どこに聞けばいいか」を案内すればいいですね。それなら今日からできるかも。
まとめ
- 制度に「外国人版」はない。要件を満たせば日本人と同じように社会保険に入る。難しいのは仕組みではなく、外国語で理解することのほう
- 入り口は2つ。会社が手続きする健康保険・厚生年金と、本人が市区町村の窓口で手続きする国民健康保険・国民年金。この境目だけ最初に伝える
- 脱退一時金は「2年以内」。本人の利益になる制度の存在だけは早めに伝え、詳細は日本年金機構の公式サイトと専門家へ渡す
次の一歩:入社案内の資料に、「会社がやる手続き/あなたが市区町村の窓口でやる手続き」の表を1枚足してみてください。書いて渡す考え方は、「外国人への仕事の教え方」・「外国人の生活ルール、最初に何を伝える?」で詳しく書いています。
本記事は2026年8月時点の公開情報をもとにした一般的な説明です。制度は改正されることがあります。個別のお手続きや適用の判断については、年金事務所・市区町村の窓口、または社会保険労務士・行政書士等の専門家にご相談ください。







